ブルーチーズは、その鮮やかな青色の模様と刺激的な味わいから「チーズの王様」として世界中で愛されています。しかし、初めて口にしたときにその独特な風味に驚き、苦手意識を持ってしまう方も少なくありません。ブルーチーズがなぜ「まずい」と感じられやすいのか、その理由を知ることで、実は美味しく楽しむための第一歩を踏み出すことができます。
ブルーチーズがまずいと感じる理由は香りと塩気にある
ブルーチーズが苦手だと感じる大きな要因は、他のチーズにはない独特の強い香りと、突き刺すような塩気にあります。これらはブルーチーズを構成する「青カビ」の働きによるものですが、慣れない人にとっては刺激が強すぎることが原因です。
独特の香りが強く感じやすい
ブルーチーズ特有の香りは、青カビ(ペニシリウム・ロックフォルティなど)がチーズの脂質を分解する過程で生成される「メチルケトン類」という成分によるものです。この成分は、人によっては「薬品のようなにおい」や「カビ臭さ」、あるいは「刺激的な酸っぱいにおい」と感じられます。鼻に抜けるこの香りが非常に強烈であるため、一口食べただけで「自分には合わない」と判断してしまうことが多いのです。
実は、この香りは熟成が進むほど複雑で濃厚になっていきます。チーズの内部で青カビが空気に触れて繁殖することで、組織が分解され、あの独特の風味が生み出されます。また、乳の種類(牛、羊、山羊)によっても香りの強さは異なります。特に羊の乳を使ったものは野生的な香りが加わるため、初心者の方はまず牛の乳から作られたマイルドなものから試すのがおすすめです。香りの正体を知り、それが「腐敗」ではなく「熟成」によるものだと理解すると、少しずつ受け入れやすくなります。
塩気が強くて食べにくいことがある
ブルーチーズを食べたときに「しょっぱすぎる」と感じたことはありませんか。実は、ブルーチーズは他の種類のチーズに比べて塩分濃度が高い傾向にあります。これには理由があり、青カビがチーズの中で適切に育つ環境を整えつつ、他の有害な雑菌が繁殖するのを防ぐために、製造過程で大量の塩が使われるからです。一般的なチーズの塩分が2%前後であるのに対し、ブルーチーズは3%から5%、種類によってはそれ以上の塩分を含んでいます。
この強い塩気が、カビのピリッとした刺激と合わさることで、口の中で非常に強いパンチとして感じられます。お酒のおつまみとして少量ずつ食べる分には良いアクセントになりますが、普通のチーズと同じ感覚でパクパクと食べてしまうと、その塩分に圧倒されて「まずい」と感じてしまいます。ブルーチーズはあくまで「風味を楽しむためのアクセント」として捉え、少しずつ削るようにして食べるのが、美味しく感じるためのコツです。
食感がねっとりして好みが分かれる
ブルーチーズの食感は、カマンベールのような弾力やパルメザンのような硬さとは異なり、独特の「ねっとり感」や「崩れやすさ」があります。これは青カビが持つ酵素がチーズのタンパク質を分解し、組織を柔らかくしているためです。この口の中で溶けるような質感が好きな人もいれば、脂っぽく感じたり、口の中に残る感触を不快に感じたりする人もいます。
また、青カビの部分と白い生地の部分で食感が異なることも、好みが分かれる理由の一つです。カビが密集している部分は少しジャリっとした結晶のような感触があることもあり、これが「砂を噛んでいるようだ」と感じる方もいます。こうした複雑な食感の組み合わせが、シンプルなチーズを好む人にとっては違和感となってしまいます。まずはクリームを添加した「ダブルクリーム製法」などの滑らかなタイプを選ぶことで、食感への抵抗感を減らすことができます。
食べる量や合わせ方で印象が変わる
ブルーチーズの印象を悪くしてしまう原因の一つに、「食べ方の間違い」があります。例えば、冷蔵庫から出したばかりの冷え切った状態で食べると、香りが閉じてしまい、カビの苦みや塩気だけが強調されてしまいます。チーズ本来の旨みを感じるためには、食べる30分ほど前に冷蔵庫から出し、室温に戻して脂肪分を緩ませることが大切です。これにより、カビの刺激が丸くなり、ミルクの甘みが引き立ってきます。
また、合わせる飲み物や食材も重要です。ブルーチーズを単体で、しかも空腹時に大きな塊で食べると、その強烈な個性を処理しきれず、拒絶反応が出てしまいます。ブルーチーズは、その強い個性を「中和」してくれる甘いものや、コクのあるお酒と合わせることで初めて真価を発揮します。選び方や食べ方のルールを一つ変えるだけで、今まで「まずい」と思っていたブルーチーズが、驚くほど重厚で深い味わいに変わる体験ができるはずです。
ブルーチーズが苦手でも食べやすいおすすめチーズ
ブルーチーズと一言で言っても、カビの量や塩分、熟成期間によって味わいは千差万別です。苦手な方でも「これなら美味しい!」と思える、マイルドでクリーミーな銘柄からスタートしてみましょう。
ゴルゴンゾーラ・ドルチェ
イタリア産のゴルゴンゾーラには「ドルチェ(甘口)」と「ピカンテ(辛口)」の2種類があります。初心者に断然おすすめなのが「ドルチェ」です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原産国 | イタリア |
| 特徴 | カビが少なく、ミルクの甘みが強い |
| おすすめの食べ方 | 蜂蜜をかけてデザート風に |
| 公式サイト | IGOR S.p.A. (イゴール) |
ドルチェは熟成期間が短く、生地が非常に柔らかくてクリーミーです。青カビの刺激は最小限に抑えられており、口当たりが優しいため、ブルーチーズ特有の「薬品臭さ」をほとんど感じません。パンに塗って食べるだけでも十分に美味しく、ブルーチーズ入門には最適の逸品です。
サンアグール
フランス産のサンアグールは、生クリームを加えて作られる「ダブルクリーム」タイプのブルーチーズです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原産国 | フランス |
| 特徴 | バターのような滑らかさと濃厚なコク |
| おすすめの食べ方 | バゲットやクラッカーに乗せて |
| 公式サイト | Savencia Fromage & Dairy |
サンアグールは、青カビのシャープな香りはしっかりありつつも、クリームの濃厚な甘みが全体を包み込んでくれるため、非常に食べやすいのが特徴です。塩気も角が取れていてマイルドなので、ブルーチーズの「旨み」の部分をしっかりと感じることができます。
キャステロ クリーミーブルー
デンマーク産のキャステロは、日本のスーパーでも手に入りやすいポピュラーなブルーチーズです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原産国 | デンマーク |
| 特徴 | クセが少なく、プロセスチーズに近い安定感 |
| おすすめの食べ方 | そのままスライスしておつまみに |
| 公式サイト | Arla Foods (アーラ フーズ) |
非常にマイルドでカビの刺激が控えめなため、初めてブルーチーズを試す方に非常に人気があります。価格もお手頃で、品質が安定しているため、日常使いのチーズとして最適です。ホワイトソースに混ぜるなど、料理の材料としても重宝します。
ダナブルー(デンマーク)
ダナブルーは、フランスのロックフォールをモデルにデンマークで作られた牛の乳のチーズです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原産国 | デンマーク |
| 特徴 | シャープな刺激と心地よい酸味 |
| おすすめの食べ方 | サラダのトッピングに |
| 公式サイト | Arla Foods (アーラ フーズ) |
ロックフォールに比べるとマイルドですが、ブルーチーズらしい「キレ」を求めている方に適しています。塩分がしっかりしているため、野菜の甘みを引き立てるサラダドレッシングの材料として使うと、その美味しさが際立ちます。
ブルー・デ・コース
フランスのコース地方で作られる、長い歴史を持つ伝統的なブルーチーズです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原産国 | フランス |
| 特徴 | 洞窟で熟成された複雑な香りと旨み |
| おすすめの食べ方 | 赤ワインと一緒にじっくりと |
| 公式サイト | Fromages AOP |
牛の乳を使っており、ロックフォールの力強さを持ちつつも、より親しみやすい味わいに仕上がっています。ねっとりとした食感と、後味に残るミルクの甘みが素晴らしく、少しずつステップアップしたい方におすすめの銘柄です。
スティルトン
イギリス産で、世界三大ブルーチーズの一つに数えられる気品あるチーズです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原産国 | イギリス |
| 特徴 | 水分が少なく、ホロホロとした食感 |
| おすすめの食べ方 | ポートワインとのペアリング |
| 公式サイト | Stilton Cheese Makers Association |
他のブルーチーズに比べて「バターのようなコク」と「ナッツのような香ばしさ」が強いのが特徴です。カビの刺激はありますが、それ以上にチーズ本体の旨みが強いため、高級感のある深い味わいを楽しめます。お酒好きの方にはたまらない逸品です。
ロックフォール
フランス産の「ブルーチーズの王様」です。羊の乳から作られる、最も力強いタイプです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原産国 | フランス |
| 特徴 | 羊乳の濃厚なコクと強い塩気、鋭い刺激 |
| おすすめの食べ方 | 貴腐ワイン(極甘口)と共に |
| 公式サイト | Roquefort Société (ソシエテ) |
正直なところ、初心者の方には難易度が高いチーズですが、ブルーチーズの世界を極めるなら避けては通れません。強烈な塩気とカビの刺激の後にくる、羊乳特有の圧倒的な甘みと旨みは、一度ハマると他のチーズでは満足できなくなるほどの魔力を持っています。
ブルーチーズをおいしく感じる食べ方とアレンジ
ブルーチーズをそのまま食べるのが苦手でも、他の食材と組み合わせることでその魅力が劇的に開花します。強い個性を逆手に取った、美味しいアレンジ方法をご紹介します。
はちみつやジャムで甘さを足す
ブルーチーズの強い塩気を打ち消し、旨みに変えてくれる最強のパートナーは「甘み」です。特にはちみつをたっぷりとかけて食べる方法は、ブルーチーズ界の鉄板ルールとも言えます。塩気と甘みが合わさることで、口の中でキャラメルのような濃厚なコクが生まれ、カビの刺激が嘘のようにマイルドになります。
はちみつの他にも、イチジクのジャムやマーマレード、あるいはメープルシロップも相性抜群です。カリッと焼いたバゲットにブルーチーズをのせ、その上からはちみつを垂らしてみてください。それはもはやおつまみではなく、極上のスイーツのような味わいに変わります。この「甘じょっぱい」バランスを一度体験すれば、ブルーチーズへの苦手意識は一気に解消されるはずです。
クリームやバターでまろやかにする
ブルーチーズをそのまま食べるのではなく、他の乳製品と混ぜて「薄める」ことで、香りと塩気をコントロールする方法もおすすめです。例えば、ブルーチーズと室温に戻した無塩バターを1:1で混ぜ合わせると、パンに塗るのに最適な「ブルーチーズバター」が完成します。バターの油分がカビの香りをコーティングし、非常にリッチで食べやすい風味になります。
また、マスカルポーネチーズやクリームチーズと混ぜ合わせるのも名案です。ブルーチーズを細かく刻んでクリーム状のチーズに練り込むと、カビの刺激が大幅に抑えられ、ディップソースとして最高に美味しくなります。野菜スティックにつけたり、クラッカーに塗ったりして楽しんでください。自分の好みの割合を見つけることで、ブルーチーズを自分専用の「美味しい調味料」に変えることができます。
パスタやグラタンで香りを和らげる
ブルーチーズを加熱料理に使うと、独特の強い香りが適度に飛び、代わりに料理全体に深いコクと旨みを与えてくれます。「ブルーチーズのペンネ」や「4種のチーズピザ(クアトロフォルマッジ)」などが人気なのは、加熱によってカビの角が取れ、チーズの旨みが引き出されるからです。
生クリームと一緒に弱火で溶かしてソースにすれば、野菜や肉料理にかけるだけで、いつもの食卓がレストランの味に変わります。グラタンの仕上げに少し散らすだけでも、焼き上がりの香ばしさが格段にアップします。「焼く・溶かす」という工程を加えることで、苦手だったあのにおいが、食欲をそそる「芳醇な香り」へと変化する魔法のような体験ができます。
ナッツや果物で相性を整える
ブルーチーズの複雑な味わいは、ナッツや果物といった「自然の素材」と組み合わせることでさらに調和が取れます。特にくるみの香ばしさや渋みは、ブルーチーズの青カビの風味と驚くほどよく合います。サラダのトッピングにブルーチーズとくるみを加えるだけで、味に立体感が生まれます。
また、りんごや洋梨、マスカットなどのフルーツと一緒に食べるのも最高です。果物のフレッシュな酸味と甘みが、ブルーチーズの塩気を洗い流し、口の中をリフレッシュさせてくれます。生ハムと一緒に巻いて食べるのも贅沢な楽しみ方です。こうした相性の良い食材を隣に置くことで、ブルーチーズを単体で食べたときのような「刺激の強さ」を感じることなく、その奥行きのある味わいを存分に楽しむことができます。
ブルーチーズは選び方と食べ方で印象が変わる
ブルーチーズは、一見すると近寄りがたい「個性の塊」のような存在ですが、その正体を知り、正しいアプローチをすれば、これほど変化に富んだ面白い食材はありません。もし一度食べて「まずい」と思ってしまったのであれば、それはまだ、あなたにとって最適なチーズや食べ方に出会っていないだけかもしれません。
最初はマイルドなドルチェタイプから始め、はちみつを添えたり、温かいお料理に溶かしたりして、少しずつその世界に触れてみてください。カビの刺激が心地よいアクセントに変わり、チーズの深い旨みが分かるようになったとき、あなたの食卓はこれまで以上に刺激的で豊かなものになるはずです。まずは小さな一切れから、新しい美味しさの扉を開いてみませんか。
